
「鬼が来るよ」が効かなくなる前に、知ってほしいこと
2026-07-19
はじめに
「早く寝ないと、鬼が来るよ」
「言うこと聞かないなら、置いていくからね」
「そんな子は、お化けに連れていかれちゃうよ」
——使ったこと、ありますよね。私もあります。
だって、効くんです。あんなに動かなかった子が、ピタッと言うことを聞く。忙しい毎日の中で、これほど即効性のある魔法はありません。
でも今日は、その魔法の「あとで届く請求書」の話を、させてください。
脅すしつけを否定して終わる記事ではありません。「じゃあ代わりにどうすればいいの」まで、ちゃんとお話しします。
脅しが効くのは「怖いから」。ただそれだけ
「鬼が来るよ」で子どもが動くとき、子どもの頭の中で起きているのは、たったひとつ。
恐怖です。
「寝ることは大事だから寝よう」ではなく、「鬼が怖いから逃げるように布団に入る」。
つまり、行動は変わっても、「なぜそうするのか」は1ミリも伝わっていないんです。
これが、脅すしつけの1つめの請求書です。恐怖で動いた経験は、何百回積み重ねても、「自分で考えて動く力」につながりません。鬼がいないと動けない子になるだけなんです。
そして、魔法は必ず切れる
2つめの請求書は、もっとシンプルです。
子どもは、賢い。
4歳、5歳、6歳と成長するにつれて、必ず気づきます。「鬼、来ないじゃん」と。
そのとき失われるのは、鬼の効力だけではありません。
「お母さんの言うことは、本当じゃないことがある」——この学習が、いちばん痛い請求書です。
しつけの土台は、突き詰めると「この人の言うことは信じられる」という信頼です。脅しは、その土台を少しずつ削りながら、目先の言うことを聞かせる方法なんです。
「鬼」の代わりに使える、3つの言い換え
とはいえ、鬼に頼りたくなる場面は、たいてい時間がない・余裕がない場面。だから、パッと使える言い換えを3つ用意しました。
1. 「鬼が来るよ」→「時計の長い針が6に来たら、おしまいね」
恐怖ではなく「見通し」で区切る方法です。時計が読めなくても、「針がここに来たら」は伝わります。決めるのが鬼ではなく約束になるだけで、子どもの受け取り方が変わります。
私は保育園でも、時計の数字の部分に矢印やシールでマークを付けて、「長い針がこのマークに来たら終わりだよ」と、さらに見える形にしていました(もちろん「長い針が6に来たら」と言葉でも伝えながらです)。目でも確認できると、子どもの納得感がぐっと上がります。
2. 「置いていくよ」→「お母さん、あっちで待ってるね」
「捨てられる恐怖」ではなく「先に行って待っている安心」に変換します。実は伝えている内容はほぼ同じなのに、子どもに残るものが全く違います。
3. 「お化けに連れていかれるよ」→「明日いっぱい遊べるように寝よう」
罰の予告を、ごほうびの予告に裏返す方法です。同じ「早く寝てほしい」でも、恐怖から布団に向かうのと、楽しみから布団に向かうのとでは、眠りの質まで変わってきます。
「鬼のアプリ」や「怖い動画」はどうなの?
最近よく聞かれるのが、鬼から電話がかかってくる風のアプリの話です。
仕組みは「鬼が来るよ」と同じなので、残念ながら請求書も同じです。しかも映像と音声つきなので、恐怖のインパクトは口で言うよりずっと強い。効き目が強いぶん、切れた時の反動と、怖がりな子への負担も大きくなります。
夜泣きや「一人でトイレに行けない」が増えたという声も聞きます。即効性と引き換えに払うものを考えると、私はおすすめしません。
同じスマホを使うなら、タイマーやお支度アプリのような「見通しを見せる道具」として使うほうが、ずっと長持ちします。
もう使っちゃった、という方へ
ここまで読んで、「うわ、全部言ってきた……」と青ざめている方。
大丈夫です。今日からやめれば、ちゃんと取り返せます。
子どもの信頼は、一度の脅しで壊れるほどやわではありません。日々の「言ったとおりにしてくれた」「約束を守ってくれた」の積み重ねで、何度でも太くなります。
鬼の出番を、少しずつ減らしていく。それで十分です。
今日も、おつかれさまでした。