
何度言っても直らないのは、伝え方のせいじゃない
2026-07-18
はじめに
「何回言ったらわかるの!」
おもちゃを片付けない。ごはん中に立ち歩く。お風呂上がりに裸のまま走り回る。
昨日も言った。おとといも言った。なんなら今朝も言った。
なのに、また同じことをしている。
「うちの子、私の話を聞いてないのかな」「私の伝え方が悪いのかな」——そう不安になっているあなたに、今日は保育士の視点から、種明かしをさせてください。
実は、何度言っても直らないのには、ちゃんとした理由があります。しかも、あなたのせいでも、お子さんの性格のせいでもありません。
子どもの脳は「わかっていても、止まれない」
まず、いちばん大事な前提から。
大人は「わかる」と「できる」がほぼセットです。ダメだとわかれば、やめられる。
でも子どもは、「わかる」と「できる」の間に、大きな谷があります。
行動にブレーキをかける脳の部分(前頭前野といいます)は、実は大人になるまでかけて、ゆっくり育つ場所です。6歳でも、まだ工事中もいいところ。
つまり、「片付けなきゃいけないことは、わかってる。でも、目の前の遊びの誘惑に、ブレーキが間に合わない」——これが子どもの頭の中で起きていることです。
何度言っても直らないのは、聞いていないからではなく、聞いてもまだ、止まれる体になっていないから。
「わかってるのにやる」は、反抗ではなくて、発達の途中経過なんです。
「100回言ってやっと1回」が、標準です
保育士として、たくさんの子どもたちの「できるようになる瞬間」を見てきました。
その経験から言える正直なところをお伝えすると——
同じ声かけを100回して、ようやく1回、自分からできる。それくらいが、子どもの標準ペースです。
大人は「3回言ったら覚えてほしい」と思ってしまいますが、子どもの習慣づくりは、雨だれが石に穴を開けるようなもの。1滴ずつは何も変わって見えなくても、ちゃんと溜まっています。
だから、「何度言っても直らない」は、正確にはこうです。
「何度も言っているから、いま育っている途中」
言い方を少しだけ変えると、届きやすくなる
とはいえ、どうせ100回言うなら、届きやすい言い方のほうがいいですよね。3つのコツをどうぞ。
1. 「やめて」ではなく「何をするか」を言う
「走らないで!」より「歩くよ」。「立たないで」より「座ろうね」。
子どもの脳は否定形の処理が苦手です。「走らない」と聞くと、先に「走る」イメージが浮かんでしまう。やってほしい行動を、そのまま言葉にするほうが届きます。
2. 遠くから言わない。近づいて、目を見て、短く
家事をしながら遠くから言う声は、子どもにとってBGMと同じです。そばに行って、目の高さを合わせて、ひと言。手間はかかりますが、遠くから10回より、近くで1回のほうが効きます。
3. できた瞬間を、見逃さない
100回に1回の「自分でできた」が来たら、そこがボーナスタイムです。「自分で片付けたんだ!」と気づいて言葉にする。この1回の成功体験が、次の1回をぐっと近づけます。
「言わなくても済む」環境をつくるのも手です
声かけの回数そのものを減らす方法もあります。それは、環境のほうを変えてしまうこと。
おもちゃが片付かないなら、箱を「入れるだけ」の大きなカゴに変える。写真を貼って「ここに戻す」を見える化する。ごはん中に立ち歩くなら、足がぶらぶらしない高さに椅子を調整する。
子どもの行動の何割かは、本人の意志ではなく環境で決まっています。「言って直す」より「言わなくても済むようにする」ほうが、親子ともにラクなことは結構多いんです。
100回の声かけと、1回の環境づくり。両方を組み合わせるのが、いちばんの近道です。
おわりに
「何回言ったらわかるの!」の答えは、身も蓋もなく言えば「100回」かもしれません。
でも、それはあなたの100回が無駄という意味ではなくて、100回ぶんの声かけが、ゆっくり確実に、お子さんの中に積もっているという意味です。
今日も同じことを言ったあなた、ちゃんと前に進んでいます。
今日も、おつかれさまでした。